ズドドドーンッッッ!
なあ、波情報どうなってる?
コンビニで買ったホットのほうじ茶を飲みながら友人にたずねる。
おにぎりを頬張る友人が俺にスマホの画面を見せる。
波は大きく非常に危険な状況です。
重大な事故に繋がる恐れがあるので
海に入ったり近づくのは控えてください。
無表情のアプリが液晶越しに教えてくれる。
せっかく休みかぶったけど
俺はやめとくわ〜見学しとくよ。
友人は早めに見切りをつけて見学を選んだ。
でも俺は知りたかった。
荒れ狂う海と
そこに入った時の自分の気持ちを。
気がつくと俺は海にいた、
海に入っている人は誰もいなかった。
あきらかにデカい。
ズドドドーンッッッ‼︎‼︎
音もデカい。
しかし、本当の意味で知るとは
五感全てで理解する事だと思っている俺は
ウェットスーツに着替えていた。
死を感じたら引き返せばいい。
さりげなくチンポジを正す。
覚悟を決める。
まず手前のスープですら厚く
ドルフィンができない。
波数も多く流れも速く方向もめちゃくちゃだ。
知らない間にどんどん流された。
ワイドすぎる波が何度も目の前で割れて
その度に巻かれまくった。
あははは
ふぉーっ!!!
やっと沖に出れて笑いが込み上げる。
あははは!ふぉー!やべえね。
この笑いは海に圧倒され
絶望に近い気持ちから来る笑いだ。
安全に乗せてくれる波は無さそうだ。
波が早かった
手前にいるとまかれそうだし
沖からでは追いつけそうにない。
試行錯誤を繰り返す。
テイ…ク…オフ!
もうなにかしてやろうなんて考えはなくなっていた。
面は固くガラスの彫刻の様に美しい
と、同時に怖い。
分厚い壁が小さい俺に迫る。
レールを入れここ最近の体感速度では
ダントツのスピードで滑りきった。
不思議なことに脳内イメージでは
俺はツバメになっていた。
が裏から来ていた更にデカい波にまかれる。
あーこっち乗ればよかったかなあ
なんて考えが浮かぶも束の間
洗濯物よろしくかき混ぜられる
息が持たない、焦る。
また次の波が来る、間に合わない。
もう沖に出ようなどという気持ちはなくなっていた。
海面から顔を出すので精いっぱいだ。
リーシュを手繰り寄せ板にしがみつき
浜に戻るべく岸に向かってパドルする。
何度目かのスープに腹ばいのまま乗って
やっとのことで砂浜にたどり着く。
体育座りをし膝に頭をつけ目を瞑る。
全身の力を使い果たしたので
意識だけが砂浜に浮いている感覚になった。
なーるほど!こういうことか!参りました!
へとへとに笑いながら
もうこういう日は入らない方がいいと
心身ともに納得した。
が、巻かれ方を学んだ気がしたし
パドル力強化に繋がったんじゃないかな。
液晶越しでは得難いものを全身全霊で得た。
入らない方がいいと納得はしたものの
到底敵わないことを体感するのも
たまには必要なんじゃないかな?
まあ見学じゃ得れないものを得たのは確かだ。
車に戻ると友人は後部座席で寝ていた。
本当に入ったんだね?どうだった?
ん〜、全然大したことなかったよ。
俺は意味ありげにニヤニヤしながら
ぶっきらぼうにそう答えた。