トンビと無人波
5月29日 晴れのち晴れ
まるで夏のリハーサルの様な天気だ。
海沿いをドライブしていると
なんか良さげなうねりが見えた気がした。
直感に従いUターンし、港に降りて行く。
おお〜、思わず声が漏れる。
むちゃくちゃ色っぽい波が
連チャンで押し寄せている。
しばらく興奮してうっとりと見惚れていた。
湯上がりの女を見ているような気さえしてきた。
もう、ここじゃん
今日はここで入ろう。
でもなんで1人もサーファーがいないんだ?
週末だぞ?こんなに波がいいのに!
ハッピー!ラッキー!絶好調ッッッ!
防波堤に近づきしっかり観察する
ゴロゴロ、ゴロゴロと玉砂利が
波が打ち寄せる度にお互いを磨き合っている音がする。
なるほど、裸足でエントリーはだるいな
しかしブーツがない
いっそのこと防波堤から直接ダイブだな
それなら玉砂利地獄は帰りの1回で済む。
さらによく目を凝らすと
波が引くと見える海藻の群れと
ところどころに岩が隠れていた。
ん〜、ちょぺっとだけ怖いなあ
ぴーひゃらるぁあ〜
空に目を向けるとトンビが上昇気流をつかまえて気持ちよさそうに旋回しながらこちらを見下ろし鳴いていた。
"びびってんのか?"
俺にはそう聞こえた。
おい、誰に言ってんだよ?
俺だぞ、今行くところだよ。
すぐスーツに着替えて
板を片手に防波堤の端を目指す。
こっから飛ぶのかあ
ぴーひゃらるぁあ〜
ああ、わかってるってば
びびってねえよ!
まずは板をぽいっ!すぐに身を投げる。
ザバシャアァンッッッ‼︎‼︎
ぶくぶくぶく…ぷはッ
思いのほか水が冷たい、が想定内だ。
板を抱きよせ、ピークを目指す
海水は凄く透明度が高く下がよく見えた
予想通り、海藻や岩がしっかりある。
まあ、巻かれなきゃ大丈夫っしょ
深呼吸、集中、集中。
固くならない程度の緊張感を持って
丁寧に滑り降りるという作戦で行く。
チラッと地平線に美しいうねりが見えた。
美女にウインクされた様な気がした。
フォオオオッッッー!思わず叫ぶ。
OK!待ってろ、今行く!
緊張して少し固くなっていた様に思う
が、波を捕まえた!
陸からの風に散らされた波の飛沫が
虹に姿を変えて追いかけて来る。
ずっと見ていたくて身を低くする。
絶景ッ絶景ッッッ!
………。
絶句、言葉にならない
というかできない、したくない。
快感以上、失神以下。
その後も約2時間ほど
快感以上、失神以下を繰り返し独り占め。
ラスト1本に乗り浜に戻る
ゴロゴロ〜ゴロゴロ〜
あー忘れてた、冷えて縮こまった足に
玉砂利が絶妙にめり込む、くそ痛え。
まるで罰ゲーム、さながら足裏マッサージだ
板を置いて四つん這いで浜を移動する。
なんとかサンダルまで辿り着き板を取りに戻る。
板を手に車に戻りすぐに着替え
冷えた体を温めるべく
防波堤に寝そべり波音に抱かれながら日光浴
気温は29℃、もう夏じゃんか。
ぬるくなったほうじ茶を飲み
おやつに用意しておいた
あんバター最中を口に入れる
同じく少しぬるくなっているがそれが程よい
嗚呼、至福。
昨日より世界が広がった。
目的や計画を手放した時
最高の瞬間が手に入る。
ぴーひゃらるぁあ〜
ぴぃひゃらら〜
"な?試してみて良かっただろ?
挑戦しなければ、可能性で終わる"
今度はそう言ってるように聞こえた。
thank you!トンビ!
また来るよ!